2012年3月8日木曜日

火曜日を歩く

大阪に帰って来てからというもの、火曜日は毎度歩いている気がする。
ぶらぶら、ぶらぶら、ぶらぶら……。
チンチン電車に揺られたり、適当な路地をひたすら奥の方へと歩いたり。
個人的には優雅な趣味だと思っている。定職につけていないだけで。
もっとも火曜日だけでなく、就職面接がなければだいたい暇なので、
いつもぶらぶらしている気がするけれど、やはりリラックス出来るのが火曜日なのだ。
無職の休日、とでも言えば良いのだろうか? 


火曜日――別段良い響きではないけれど、
なんだか開放的な趣がそこには存在している気がしてならない。
高校からの友人が水曜休みの為、
火曜日は散歩の後、家で夕食をとってから近所のBARに行くことになる。
そこで何杯かのシングルモルトやグラスワインを飲み、フレンチトーストなんかを食らいながら、
僕が地元に居る間にしか出来ない幾つかの計画を立てたりする。
とっても素敵な日だ。

火曜日を歩く日に決めた僕が、
今一番好きな散歩スポットがあるとすれば、帝塚山である。
それは、大阪のいささか小さい高級住宅地だ。
と言ってもなかなか所帯じみた趣と、
近くの学生達の通学路になっているので気取らず、とても気持ち良く歩くことが出来る。
Billy Joelを聞きながら、鼻歌交じりにカメラをぶら下げで散歩していると、
なんだかドラマティックで素敵な一日が始まる、そんな気がしてしまう。
それは多分、ここがアップタウンだからだろう。
確か、曖昧な記憶ではアップタウン=山の手だったと思う。
大阪の山の手は多分、阿倍野から帝塚山あたりだから、アップタウンと言っても差し支えない。
……多分だけど。
そして僕はヘッドフォンから聞こえてくるアップタウン・ガールを聞きながら、
和訳を色々と想像してみたりする。


俺はアップタウンに住んでいるお嬢さんを自分のものにしょうとしている。
彼女はずっと高価な暮らしをしているみたいだ。
彼女は熱意さえあれば、誰とだって付き合っても構わないと思っている。
それで今、彼女はダウンタウンの男を捜しているみたいなんだ。
そう、実はそれが俺のことさ。
分かってると思うけど、俺には彼女の真珠を買う余裕なんかない。
でも、いつか――金持ちになったら、
彼女は俺がどんな男だったのか理解するだろう
そして俺は彼女を手に入れるんだ。


中々素敵な歌詞だ。
曖昧な和訳だけどね。

さて、帝塚山に話を戻そう。
帝塚山は阿倍野(僕の実家から)チンチン電車で10分ほどの距離にあり、
道の真ん中に路線が続いている。
路線のある町がどうして素敵になるのかは僕には分からないけれど、
歩いているだけウキウキしてくる町ではある。
遠い頃の思い出、多分高校の帰り道なんかを思い出すからだろう。
いや、高校の頃に思い描いていた、理想の帰り道がここにあるからかもしれない。
代官山までとは言わないけれど、路線を中心にして小綺麗な喫茶やパン屋、
それと歯科医が沢山ある。
夕暮れの帰り道、チンチン電車に乗って何処かの喫茶でコーヒーを飲む、
そんな学生時代があっても良かったな、とか思ったりしてしまう。

沢山の歯科医で思い出したけれど、
僕は大阪に戻って来て、帝塚山を訪れるまで、
記憶の中ではずっと帝塚山=歯科医であった。

僕は小さな頃、全部の歯が虫歯だったこともあり、
毎週毎週母の自転車の後ろに揺られ、帝塚山の歯科医の幾つかに通っていたのだ。
勿論今も昔も歯科医は嫌いなのだけれど、虫歯の治療を終わった後、
素敵なパン屋に向かうのが楽しみだったことを覚えている。
今から20年前の話だ。
でも、不思議なことに当時のパン屋の幾つかがこの町には残っている。
それがなんだか嬉しく、同時に少し恥ずかしい気持ちを僕に与えるのだ。

火曜日の散歩、それはまるで自分自身の過去を歩く、
心が綺麗になる散歩として、今現在の僕の日常の中に存在している。
そういう日がひとつだけあるだけで、随分気持ちの良い生活が出来るもんだな、なんて風に思っている。

















編集後記

無職無職と呟いていたけれど、
一応定職に就くことになりました。
田舎の方の、小さな写真スタジオです。
研修が半年もあるので見習いカメラマンというわけです。
ささやかな写真とささやかな文章の二足の草鞋を頑張りましょう。

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