2012年5月15日火曜日

《連載》喫茶偏愛記♯04 カフェ・ミケランジェロ



 
 『最後の恋が終わる時』



 樹齢300年のケヤキの木漏れ日は、ただひたすらに優しかった。季節が良かったのかも知れない、と僕は思った。今は6月の終わり。梅雨のじめじめとした湿気がいつのまにか蒸発し、すぐ側に夏の香りを感じることが出来る。
 ここは代官山、カフェ・ミケランジェロ。式場を備えたリストランテASOと隣接する、幸福な光に包まれたカフェー。何度も通った、お気に入りのカフェー。時刻は午前11時過ぎ。リストランテで食事をするには早すぎるし、カフェの方ではこの時間、犬連れの裕福層が店内に数名居るだけだ。中庭の喫煙席に来るような客層の人は誰も居ない。ここに居るのは僕だけだった。
 この店に来る人々は皆幸せそうな顔をしている。代官山で休憩するにはちょうど良い立地であるし、この店のブリュレは一度は口にするに値する味だ。それに店内も中々洒落た空間で、十八世紀頃のイタリアを思い起こさせる。ここはルネッサンスに吸収された残り香のような場所。テラコッタの床にアンティークの家具、そしてケヤキからの木漏れ日。その空間はパティオのように僕の瞳には映る。僕は何人かの幸せそうな顔を順々に眺めてみる。本当に幸せなんだろうと思う。高所得者層の住むエリアでは人々は皆幸せなのだ、と思った。
 僕は幸福な光の中で無添加の煙草に火を点ける。優しい風が僕の頬を掠め、過去の出来事をそっと流してゆくように感じられた。僕はゆっくりとサングラスを外し、その光の粒を眺めてみる。透明な微粒子が視界に淡く映っている。それは梅雨の終わりに降り注ぐ、甘い思い出の精のように見えた。

 この場所は僕にとって、それほど幸せな場所ではない。この場所はひとつの終わりを意味する場所。そう、この場所は――僕の最後の恋が終わった場所であった。そして僕は未だ、あの因縁の立食会のことを今でも克明に覚えていた。


 ※


 事の始まりは一昨年の3月。友人が主催するパーティーがリストランテASOで開かれた。僕が居る中庭は、ミケランジェロとASOの共有のスペースであった。
 青山でブティックを経営していた友人が、新作ジュエリーの受注会の後、この場所で簡単な立食パーティーを開いた。同じく青山でフリーライターをしていた僕は、受注会と立食会の記事を書くよう頼まれていた。僕はひとつひとつ新作ジュエリーを丁寧に写真に収め、友人からコンセプトやら今後の創作意欲やらを熱心に聞いた。

 一通りお決まりのプログラムが終わった後、僕は仕事の疲れもあって皆から少し離れた中庭で煙草を吸っていた。その場所には同じように煙草を吸う人々と、それに連れられて来たであろう何人かの人が居た。華やかなな衣装に身を包んだ女性と、自信の色を匂わせた、いささか煙たい男性の数々。僕はそんな彼らの談笑を少し離れた席から眺めて居た。
 何口か煙草を吸った後、仕事を引き上げようとした僕は、友人を探す為に視線を彷徨わせた。その時、ひとりの女性と目があった。そして彼女を一目見ただけで、僕の体にはとても強い衝撃が来た。彼女は――僕が昔知っていた女の子とそっくりであったからだ。顔も雰囲気も、装う姿も、その小さな八重歯も――何もかもが彼女とそっくりであった。僕はしばらく、彼女のことを視界から消すことが出来なかった。彼女は感じの良い男性2人と楽しそうに会話を弾ませ、時折りハンカチで頬を抑えた。それは本当に、僕の良く知る女性と瓜二つで、夢のような景色だった。


 ※


 僕には忘れることの出来ない女性が居た。その昔恋をして、しばらく生活を共にしたこともあった。立食パーティーの中で見つけた彼女は、その昔僕が恋した女性と実によく似ていた。

 僕と元彼女はあるゲームをして、そのせいで付き合うことになった。それも半年という期限付きの付き合いだった。どのようなきっかけだったのか、それはもう忘れてしまったけれど、出会いはショット・バーで、おそらくたわいない話だったに違いない。しかし、厳密に期限を設けた理由だけは今でもはっきりと覚えていた。
 その年、僕は25歳の会社員だった。僕は会社を辞めて、フリーで生きてゆくべきか思い悩んでいたところだった。彼女の方は21歳で、画家を志す美大生だった。彼女は大学卒業後、イタリアのミラノに修行に行くことに決めていた。僕の方は、フリーでやるなら東京の街だな、と淡く考えていた。僕らは共に地元の街から出てゆく算段をしているところだったのだ。彼女は海外へ、僕は東京へ――。それまでの期間、同棲してみるのも面白いかもしれない、そんな些細な会話のきっかけから始まった、ひとつのゲームであった。
 翌週、彼女は早速自分の画材道具一式と必要最低限の衣服なり諸々を持って僕のアパートにやってきた。僕のアパートが14畳のワンルームだったことと、彼女の荷物が少なかったことから、共に生活するにはまだゆとりのあるスペースが部屋にはあった。僕はやってきた彼女に当然のようにこう告げた。
「本気だったのかい? あのゲームみたいな話は」と。しかし彼女は、当たり前のようにこう言った。
「ええ、これはゲームなんですもの。せっかくお互い出会ったのだから、こういう選択をしてみるのも楽しいかもしれない。しばらく日本に戻るつもりもないことだし」
「つまり、楽しいっていうのは日本の思い出としてってこと?」
「そうよ、もしかしたらあなたは、私の生涯最後の日本人ボーイ・フレンドになるかもしれないね」
「そいつは光栄だな」
「でしょう? あまり時間はないけれど、お互い楽しくやりましょう」彼女は笑ってそう言った。
 美大生だった彼女は、いささかエキセントリックな性格の持ち主で、時々ついてゆけないような考え方に触れることになったけれど、長年ひとりで生活して来た僕にとって、彼女が隣に居るだけで毎日が鮮やかな彩りを放ち始めた。それはとても新鮮で、幸福な日々だった。
 当時の僕と彼女の間に、恋愛感情といったようなものは殆どなかった。ふたりの間にあったのは、フランクな友情のようなものだったと言える。僕らの生活サイクルは随分と違ったものだったし、当たり前の話だけれど、彼女と僕は恋人ではなかったから、別々のベッドで眠っていた。時々は気のないセックスを何度かしたけれど、僕らは大抵気の会うルーム・メイトのように接し合った。
 しかし、勿論物事は変化してゆくことになる。僕らがそれを望むと望まざるに関わらず。気がついた時、僕らは普通の恋人として日々を送るようになっていた。現在を生きる人間にとって、変化は必然と言える。僕ら人間は変わってゆく生き物だからだ。そしてその変化を自分自身で捉えることが出来ない生き物。だから、僕と彼女の間に愛が芽生えていたとしても、何も不思議なことはなかった。選択事態がゲームでありさえしても、僕らは事実として、共に生活していたのだから。
 ただひとつ、欠点があったとすれば、僕らの生活は期限が決まっていたことと、恋心に気づくまで(或いは芽生えるまで)に時間が掛かりすぎてしまっていたことだ。
 僕らが恋心に気づいてからというものの、それまであったフランクな友情というものは綺麗に消えてしまった。タイム・リミットが目前に迫った恋。僕らは何度も泣きながら、自らの選択が間違っていたことについて思い知らされることになった。僕らがふたりとも部屋を出てゆき、それから別々の暮らしを送ることは、この時点では既に変更不可能な決定事項になっていた。僕らは互いに夢があったし、必死で計画し、その夢へと繋がるレールに手をかけているところだったからだ。僕らは何度も喧嘩もした。期限が目前に迫る程、僕らはの関係はぎくしゃくとしたものとなった。僕らは互いに、互いがいなければその夢を守ることが出来たからだ。もし、お互いがお互いを必要とするならば、僕らは夢を捨てざるを得なかった。

「なんだか、色々なことがおかしくなっちゃたね」
 最後の夜、彼女が言った。
「ああ。複雑に糸が絡まり合って、絡まりながら爛れたみたいだ」
「ねえ、諦めても良いのよ」
「一体何を?」
「ミラノに行くこと。東京でも絵は学べる。もしかしたら絵なんてものは、何処でだって学べるものかもしれない」
「ねえ、どうしてそういうことを言うんだよ。君はずっと、ミラノに行く夢を実現させようと懸命に頑張っていたじゃないか、それに――この機会を逃すことで、君の人生に狂いを生じさせたくないんだ」と僕は言った。
「あなたのいない人生と、予定から外れた夢の人生。ねえ、どちらが人生に狂いを生じさせるのかしら?」
 僕は彼女の問いに答えることが出来なかったし、彼女もまた、答えがないと知りながらの質問だった。僕らはその夜、強く抱き合い、そして僕らの半年間をなかったことにする決断を下した。始まりはゲームだったんだ、だから僕らの恋愛感情も、それに付随するオモチャみたいなものだったんだよ、と。不器用な僕らは、きちんとした新たなる第三案の創造を諦め、元通りの何もなかったという馬鹿馬鹿しい決断を最後に下して別れた。別れを決めた僕らはひどく呆気なく、連絡先も教えないまま3年の月日が流れた。
 そして僕は3年後、その立食パーティーで彼女の面影に再会した。


 ※


 僕は煙草をもみ消して、意を決意して彼女の元に歩み寄った。手にふたり分のグラスを持って、彼女が中心となって会話するグループの中に入っていた。
「こんにちは」と僕は言った。
「こんにちは」と彼女も言った。
「もし良かったら、後で君とお話したい。僕は店内に居るから、気が向いたら声をかけて貰えないだろうか?」
 僕は緊張し、胃の中身をそっくりそのまま出してしまいたい衝動を必死で抑えなければならなかった。彼女は「今で構わないかしら? 一区切りついたところだったのよ」と言ってグラスを受け取った。そして僕らはグラスを持って、リストランテ内の席に腰をつけた。
「ねえ、あなたは記者か何かなの? 朝からずっとレコーダーを回したり、写真を撮ったり、手帳に書き殴ったりね。実はずっと気になっていたのよ。一体あの人は何をしているんだろうなって。今日はアクセサリーの受注会でしょう? 一般のお客の他に、様々なデザイナーや経営者が来ている。そういう人ってだいたい雰囲気で分かるのよ。身につけている衣服や、微かな香水の香りから。そして――何よりも自信たっぷりな言葉遣い。私ははっきり言ってあの話し方がとても嫌いなの」
「僕はフリーでライターの仕事をしているんだよ。今日の出来事を簡単に文字にして、写真をとってメディアに流す。情報係ってところだね。こんなイベントがありましたよって具合に。今の世の中、口コミだけで人が集まることなんて滅多にない。僕はそういうイベントを文字に起こして、ひとつの情報にする仕事をしている。今日の主催者は僕の友人なんだよ」
「なんだかとても素敵な仕事のように思えてくるわね」
「そんなに良い仕事じゃないよ。言うなれば、議事録係ってところだろうね」
 彼女は少し笑った。その微笑みは、やはりいつかの彼女の笑顔と重なって、僕は胸が痛くなった。そして同時に、どうして僕は彼女に声をかけたのだろうとひどく自己嫌悪に陥った。
 僕らはそのまま会がお開きになるまで、楽しい歓談を続けた。彼女の仕事はスタイリストで、様々な受注会に足を良く運ぶのだと教えてくれた。僕らの間に共通点は殆どなかったけれど、それでも会話が途切れることはなかった。
 僕は彼女と話しながら、自分自身の心の存在する、かつての彼女の幻影を見ていた。3年間、ずっと大切に保管していた彼女の幻影を。目の前の彼女が笑う度、幻想の彼女も微笑んだ。それはまるで、かつての日々が蘇ったような錯覚を思い起こさせた。そして同時に、僕の心をひどく痛めた。
 彼女は別れ際、僕にこう訊ねた。
「ねえ、あなたっていつもそうなの?」
「何のことだい?」
「遠くを見ているわ。ずっと遠くを……。あなたとの会話はとても楽しかったけれど、あなたは何か、別のことを考えていたみたい」
「例えば?」
「ん……、そうね。例えば、自分の発信する情報の価値とか……」
「情報の価値」
「そう――情報の価値。例えばだけれど……」
 僕はそんな些細なやりとりの中、突然決意して言った。今言わなければ、何もかもを後悔してしまうと思った。しかし、実際は言葉を発したすぐ側から後悔が押し寄せてきた。
 実は君は、僕が昔恋をして、ひどい別れ方をした彼女にそっくりなんだ。僕は今でも彼女のことを想っている。別れたことをひどく後悔しているんだ、というようなことを僕は彼女に向かって言った。
 目の前の彼女は大笑いをした。
「皆ね、そう言うの。はやっているのかしらね、その口説き文句」
「僕は別に、口説く為に言ったんじゃないんだ」と僕は言った。
 君は本当に、何から何まで彼女にそっくりなんだよ、と僕は思った。
「ねえ、だったら何だって言うの? 口説き文句ですって言った方が賢明じゃないかしら?」彼女は笑ってそう言った。僕は何も言うことが出来なかった。

「ここでお別れね。話せて楽しかったわ。あなたがどう思っているのか、そこまでは分からないけどね。でも、ひとつ忠告。間違っても初対面の人に、そんな口説き方をしないこと。いいね?」
 僕は黙って肯いた。そして彼女は去って行った。

 勿論、彼女は決して悪くない。僕に彼女を口説く意識がなかったとしても、あんなことを初対面の女性に向かって言うべきではなかったのだ。勝手に幻想と彼女を重ねた僕自身が悪いんだ。しかし、それでも尚、僕は彼女の言葉でひどく傷ついてしまった。まるで、ずっと大切にしていた宝物を、容易く些細な一言で粉々にされてしまったような感覚を味わった。
 彼女が僕の恋人である可能生なんて、僕は微塵も考えてもいなかったが、彼女の姿は本当に恋人そっくりで、僕の何かをひどく乱した。僕は彼女をパーティーで一目見かけて、とても嬉しく思った。ずっと大切にしていた、再会という淡い可能生が脳裏によぎったことも確かだった。しかし、それは再会ではなかったのだ。僕が夢見ていた再会は、彼女との些細な出会いによって、現実には起こりえないことを知った。僕はこの3年間――いつも何処か、心の何処かで、また彼女に出会うことが出来るのじゃないだろうかとずっと考えていた。そして、そう考えるだけで、ひとりでこの先も生きてゆける気がしていた。
 しかし、瓜二つな彼女と出会ったことで、その可能生にすがることが出来なくなってしまった。いや――僕はただ単純に気づいてしまったのだ。彼女との恋や淡い思い出は既に風化し、終わってしまったんだということを。僕は昔の恋人を大切に想っていたし、彼女に恋をしていた僕自身の感情も大切にしてきたつもりだった。しかし、それがまるで意味のない行為だったことに気づいてしまった。
彼女はもう居ない、いつまでも囚われてはいけないんだ、と。それは本当に呆気なく崩れ去ってしまった。
 

 ※


 今でも僕は、このカフェーに足繁く通っている。僕のオフィスは青山だったし、代官山までは毎日の散歩ルートだったからだ。
 しかし僕は以前とは違い、この場所に来ても昔の恋人のことを思い出すことはなくなった。僕は周囲の人々と同化したように幸せそうな笑顔を携え、ひとり静かにコーヒーを飲んでいる。18世紀のイタリアを思い起こさせるこの場所で、遠くミラノで絵を描いている彼女の姿を想像することはなかった。それは別に、寂しいことでもなんでもない。僕はいささか、彼女のことに囚われ過ぎていただけだったのだ。
 今はまだ、僕の心に少しの隙間がある。それはかつて、彼女の思い出が埋まっていた場所だ。しかし、この隙間もいつかは自然と埋まるだろう。誰かが埋めてくれるかもしれないし、あるいは隙間が縮小して、そっくりと消えてしまうのかもしれない。しかしそれはまた、別の話だ。とにかく僕はこうして、彼女の思い出を失った。そしてそれは同時に、僕の最後の恋が終わった瞬間だった。

カフェ・ミケランジェロ 情報
《電話番号》03-3770-9517
《アクセス》東京都渋谷区猿楽町29-3
《営業時間》11:00~22:30(LO)
《定休日》なし
編集後記



カフェ・ミケランジェロは僕にとって特別な場所である。
僕が初めて短編小説を書いた際、舞台にしたカフェだ。
その時は確か、今回のように中庭席ではなく、テラス席でのやりとりについて描いた。
タイトルもそのまま「オープン・テラス」。
こちらは初期の短編集「幾つかの小綺麗なレストラン」に収録されている。

実のところ僕は、こういうお洒落系カフェが得意ではない。
一見の客は皆、判で押したようにグルメ・マップや食べログとかの情報から
やってるような連中だったし、
常連客はセレブのような裕福層だった。
間違っても僕のような孤独な執筆者がノートPCを持って訪れる店ではない。
僕の趣味はどちらかと言うと、もっともっさりとした具合の店が好みだ。
例えば、市ヶ谷の喫茶リカとか……。

僕は幼少の頃から、特にお金で悩まされるほど質素な暮らしではなかったけれど、
所持金はいつもギリギリで、裕福な人々を見る度、嫌悪感を抱いていた。
けれど、やっかいなことに僕が初めてこの店に訪れたきっかけは、
裕福な友人に連れられて来たことが始まりだった。
彼は実際、とんでもないお金持ちのおぼっちゃんだったし、
いつも高級で華やかな店に僕を連れ出してくれた。
(思えば、その頃が一番東京での暮らしで楽しかったように記憶している)
カフェ・ミケランジェロは、その友人と初めて遊んだ時に訪れた店だった。
僕はこの店に来た時、「おお、これが代官山――華の東京の喫茶かぁ」と、
ひどく呆気にとられたことを強く覚えている。
店内に降り注ぐ光は、まるでドラマのワン・シーンのように輝いて見えたし、
大型犬を店内に連れて休憩する客層が居ることにも驚かされた。
僕ははっきり言って、この店の雰囲気にアテられ、随分と心が躍ったのだ。
ああ、こんな素敵な店なら、雑誌で見て行きたくもなるなって具合に。
ようは今までの価値観が一変してしまったわけだ。

結局初来店時、僕はドギマギしてしまって店内には入らず、
店先のテラス席に座ったのだけれど、何度も友人と店に来る内、
すっかりこのカフェが気に入ってしまい、いつのまにか店内・中庭・
それと隣接したリストランテまで通うことになった。
当時、僕の職場が中目黒にあって、
歩いて10分ほどで行ける場所だったことも大きいと思う。
中でも僕が気に入っていた点は、クレーム・ブリュレでも、
ケヤキからの木漏れ日でもなく、コーヒーだった。
決して旨いコーヒーだとは当時でも思わなかったけれど、
とても上品な容れ物で出してくれる上、
2杯分のコーヒーが入ったポッドと共に出してくれた。
「こんな素敵な店で、2杯分のコーヒーが?」
というのが、なにより嬉しかった。

今でも僕は、このカフェのことをよく空想する。
思い出の中のミケランジェロはいつも6月から8月くらいの気候で、
素敵な匂いを感じることが出来た。
そして、この開放的で素敵なカフェには、
ドラマのワン・シーンのような素敵なロマンスが、
すぐ側にあるような気がしてしまう。


0 コメント:

コメントを投稿